成長する人と、成長しない人の考え方は、どのように違うのだろう?
仕事でも趣味でもそうですが、すぐに成長する人もいれば、なかなか成長しない人もいます。
「成長する思考態度」を持つと、人は自分の知性や能力を伸ばしていくことができるということが、スタンフォード大学の教授である心理学者のCarol Dweck(キャロル)博士の行った20年にわたる研究で明らかになっていますので、今回はその研究をご紹介したいと思います。
では、早速ですが本題に入っていきたいと思います。
目次
2つの成長に対する思考態度
自分の成長についての思考態度は
- 固定された思考態度
- 成長する思考態度
この2つです。
それぞれ説明していきます。
固定された思考態度
固定された思考態度
「固定された思考態度」というのは、根本に「自分をよく見せたい」という欲求があるため、失敗する可能性がある挑戦を避けたがります。
障害にぶつかった時のあきらめも早く、努力は実を結ばないと考えがちなのです。
批判に対し、例えそれが有用なものであってもネガティブな意見であればフィードバックを無視してしまい、他人の成功に脅威を感じます。
そして自分の能力を出し切ることができず、早い段階で能力の伸びが頭打ちの状態へと移行してしまいます。
簡単に言えば、自分のできることしかやろうとせず、新しい事に挑戦しようとしない人です。
成長する思考態度
成長する思考態度
「成長する思考態度」は、まず「学びたい」という欲求から始まるため、挑戦を喜んで受け止め、逆境にぶち当たっても粘り強く堪えます。
努力は熟達への通過点と考え、批判から学び、他人の成功からも学んだりインスピレーションを受けたりするという流れが根本にあるのが「学びたい」という考えのため、高い成功レベルへと到達できるというわけです。
キャロル博士によると、学校の中や社会の中、人と人の関係の中でも、結果を証明しようとする人は多くいるそうです。
彼らは自分の持っている能力や素質は限られており、自分の知性や人格がどんな状況でも評価対象にあると考えているため
- 失敗しているか
- 成功しているか
- 賢く見えるか
- バカに見えるか
- 受け入れられているか
- 排除されているか
- 勝者か
- 敗者か
このようなことに重きを置いてしまいます。
一方で自分の素質は努力によって伸ばすことが可能だと考えている人は上記とは別の考え方をします。
人によって持っている素質は別々ですが、誰しもが経験や勉強を通して素質を育てたり変えたりすることが可能であると考えるのです。
もちろん、努力をしたからといって思い通りの実力を手に入れることのできる訳でもありませんが、自分の潜在能力を「まだ分からない」ものと考えることで、情熱を持ちトレーニングを何年も行うことができるのです。
思考の研究1
キャロル博士が行った研究に、4歳の子どもを対象にした実験があります。
1つのグループには「固定された思考態度」を教え、もう片方のグループには「成長する思考態度」を教えてから、それぞれのグループに2種類のジグソーパズルを選択してもらいました。
実験結果
つまり、「固定された思考態度」のグループは自分を賢く見せるための確実な成功を求め、「成長する思考態度」のグループは自分の能力を伸ばせる方を選んだのです。
これは彼らの「成功」の定義が賢く見せることではなく、賢くなることを意味するためだと考えられます。
また、キャロル博士は著書の中で7年生の少女の発言も引用しています。
キャロル
知性は、もともと備わっているものではなく、自分で育てなければならないものだと思います。
答えが分からない時、多くの子どもが出された質問に対し、手を挙げないでしょう。
でも私はいつも手を挙げます。
なぜなら私の答えが間違っていたとしたら、それはちゃんと正されるからです。
もしくは手を挙げて『どうやって解くのですか?』とか『分からないので、手伝ってもらえますか?』と尋ねます
そうすることによってしか知性は向上しないからです。
このように、キャロル博士は言い、2つのグループの考え方の違いをハッキリと言葉にしました。
思考の研究2
さらに、キャロル博士らは10代の少年少女を中心としたテストを実施しました。
それぞれの子どもに非言語的な10個のIQテストを解かせ、2種類の方法で彼らを褒めました。
つまり、一方は能力を褒め、もう一方は努力を褒めたわけです。
実験結果
このことから、2つの考え方は挑戦に対する「楽しみ方」に大きな影響を与えることがわかります。
どちらのグループも最初の問題は簡単に正解できるため楽しめるのですが、問題が難しくなっていくと、能力を褒められた子どもは楽しむことができず、一方、努力を褒められた子どもたちは自分の能力を伸ばしていけるので難しい問題でも楽しめるわけです。
前者が問題に正解できないことでどんどんやる気をなくして行くのに対し、後者はどんどん成長していきます。
そして「固定された思考態度」の持つ最も大きな弊害は、「固定された思考態度」のグループの子どもたちが嘘をつくということにありました。
彼らは「テストの点数を仲間に伝えるために手紙に書いて」と言われると、賢く見られるために嘘の点数を書いたのです。
この結果は2つの考え方の成功に対する考えも左右します。
キャロル博士は上記のような2つの考え方を、仕事や教育ではなく、愛にこそ適応させなければならないと述べています。
人と人の関係において「固定された思考態度」を適応させると、自分の理想の相手が自分自身を高みにやり、自分に完全さを感じさせてくれると信じますが、「成長する思考態度」のグループは自分の間違いを認めてくれ、愛を持って成長を手助けしてくれる人をパートナーに好みます。
「固定された思考態度」のグループは「相手が自分たちの関係をどう考えているか」ということについて自分とわずかな違いがあっても、脅威や相手に対する敵対心を感じるとのことです。
一方「成長する思考態度」のグループは相手を責めず、欠点を認め、欠点があっても自分たちは十分な関係にあると考えます。
成長思考は学習を助ける
この20年間、教育現場で最も影響力のある現象の一つが「成長思考」です。
これは、生徒が自分の知能、数学などの分野での能力、性格、創造力など、さまざまな能力について持っている信念のことです。
グロース・マインドセットの提唱者は、これらの能力は学習と努力によって開発され、「成長」することができると考えています。
一方、「固定観念」と呼ばれる考え方もあります。
これは、これらの能力は固定されており、変えることができないと考えるものです。
成長マインドセットと固定マインドセットの理論は、1998年にアメリカの心理学者キャロル・ドウェックと小児外科医クラウディア・ミューラーによって初めて提唱されました。
二人が行った研究では、小学生がある課題に取り組み、知能などの既存の能力や、課題に取り組んだ努力を褒めるというものでした。
研究者たちは、より難しい課題に取り組んだとき、子どもたちがどのように感じ、考え、行動したかを観察しました。
これらの結果から、固定観念は成長観念よりも学習に不利であると推測されています。
この考え方は、認知科学や行動科学において多くの支持を得ています。
根拠について
心理学者たちは1世紀以上も前から、人が持つ一連の前提や方法、そしてそれらが動機や行動にどのように影響するかを示す「マインドセット」の概念を研究してきました。
グロースマインドセットは、スタンフォード大学の心理学者アラン・バンデューラが1970年代に提唱した社会的学習理論「ポジティブな自己効力感」に端を発しています。
自己効力感とは?
自己効力感とは、特定の状況下で成功したり、課題を達成したりする能力があると信じることです。
また、グロースマインドセットは、1980〜90年代に研究された「達成志向」を再構築したものです。
ここでは、人はある結果を達成するために、「習得志向」(より多くのことを学ぶことを目標とする)と「パフォーマンス志向」(知っていることを示すことを目標とする)のどちらかを採用することができます。
グロースマインドセットの考え方は、脳の可塑性(経験によって変化する脳の能力)やタスクポジティブ・タスクネガティブ脳ネットワーク活動(目標志向のタスクの際に活性化される脳ネットワーク)の理論と一致しています。
成長マインドセット理論と固定マインドセット理論は、結果の予測と介入における影響の両方において、エビデンスによって裏付けられています。
しかし、この理論は普遍的な支持を受けていません。
2016年に行われた研究では、大学生の学業成績は成長マインドセットと関連していませんでした。
これは、成長マインドセットの理解のされ方にも原因があると考えられます。
人は特定のテーマやタスクに対して、成長型や固定型など、異なる時期に異なるマインドセットを示すことがあります。
キャロル博士によるとこのことは、固定観念と成長観念の区別が連続していることを示唆しています。
また、人が一度に採用するマインドセットは動的であり、文脈に依存することを示唆しています。
成長思考の指導
この理論は、さまざまな教育プログラムで評価されています。
2018年の分析では、生徒の成長マインドセットを高める介入が学業成績に影響するかどうかを調査した多くの研究をレビューしました。
しかし、社会経済的に恵まれていない生徒や、学業面でリスクを抱えている生徒には、成長マインドセットの指導が効果的であるケースもありました。
人間の理解と学習プロセスの複雑さを考えれば、この否定的な調査結果は驚くべきことではありません。
キャロル氏らは、学校の文脈や文化が、グロースマインドセットの介入によって得られた利益が持続するかどうかに関わってくると指摘しています。
マインドセット理論
マインドセット理論は、2つの別々の現象を混同しているように見えますが、どちらも教育において考慮する必要があります。
すなわち、人の実際の能力(知能など)と、それについての考え方です。
生徒はいつでも自分が知っていることを自覚し、それを大切にしなければなりません。
また、それが不十分である可能性があること、拡張できること、その方法を知る必要があります。
教育者と保護者は、子供との対話で、能力が固定されていることを示唆しないようにする必要があります。
5分後には何がわかるようになっているか、ということに焦点を当てて話をするべきです。
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